ガラスの棺 第13話 |
ああ、くそ。 暑い。 汗が止まらない。 疲労はとうの昔にピークに達している。 それでも私はこの足を前へ前へと進めていく。何が目的化は解らないが、どうせいい話ではない。ならば捕まるわけにはいかないのだから死ぬ気で頑張れと、言うことを聞かない足を叱咤した。 人気のない場所は危険だ。 だから人ごみにまぎれ、街を走る。 人を隠すには人の中。 人のいる時間帯、人のいる場所を選んで逃げるほかない。 このまま夜まで追いかけっこをし、人気の無くなる時間帯にはどこかに隠れる。そして日が昇れば追いかけっこの再開。それをただ繰り返していた。 しつこい追っては日増しに増え、包囲網は狭まっている。 だが、それは好都合。狭まれば狭まるほど、気付かれずに抜けた出した時には自由を得られる。私はその時を待っているにすぎない。今すぐにでもここを抜けだし、目的の場所へ行きたい気持ちはあるが。残念ながら今はまだその時ではないのだ。 夕暮れが迫ってきたのを感じ、私はショッピングモールへ駆けこんだ。周りを警戒しながら衣料品売り場を回り、服を適当に選んでさっさとレジを通す。辺りを見回し、腰をかがめるようにして速足で進み階を移動。この時間は飲食店がある上層階がにぎわうから、そこを目指す。 そして辺りを警戒しながらトイレへ駆けこんだ。 ここで一息つきたいが、追ってには女も混ざっている。 逃げ道がない場所に長居はできないのだ。 だからさっさと着替え、今着ていたものを紙袋に詰める。 鞄も交換し、髪形もかえる。 汗もぬぐい、軽く化粧を直す。 一見すれば別人に見えるように変装し、紙袋を手に店を後にした。 予想通り私を探していた連中は、私に気づくことなく横を走り抜けていく。 これで再び時間が稼げた。 もう疲れたと欠伸をしてから、私はホテル街へと足を進めた。 向かったのはありふれたラブホテル。 ビジネスホテルでは奴らが入ってくる恐れがあるが、今のところラブホにはあいつらはやってこなかった。一人でチェックインし、荷物を下ろすとすぐにシャワーを浴びた。 暖かなシャワーが汗を洗い流し、ようやくほっと息を吐いた。 緊張でガチガチに硬くなった筋肉をほぐしながら、欠伸をする。 疲れた。 それしか言えない。 限界まで酷使した足ががくがくと震えている。 ふむ、こんな状態で良く逃げきれている物だと自分を褒めた。 最悪、力を使えば逃げ切れるのだが、目立つ事はしたくは無いし。 相手に警戒されても厄介だ。 シャワーを終え、バスローブをまとっただけの姿でベッドに乗ると、さてどうしようかと考えながらごろりと横になった。 疲れた。 眠い。 お腹すいた。 「ピザ・・・ピザが食べたい」 だが、どうにか買った食べ物はコンビニのパンとジュース。仕方が無いのでそれで腹を満たす。もそもそとパンを食べながらジュースで流し込み、どうにか人心地ついた。 そもそもだ。 何故追われているのかいまだに解らない。 ルルーシュの墓が暴かれた。 だから急ぎブリタニアに渡ったが、その空港からずっと私は追われ続けている。あいつらと連絡を取りたいところだが、この状況だ。傍受されていたらアウトだし、あちらの場所がバレてしまうのはもっと拙い。だから電源を落としたままにしていたが、今は充電が切れていた。空港で荷物を奪われた時に充電器も無くした。 幸い、財布と携帯やパスポート類は身につけていたから無事だが、このままでは携帯もただの鉄の塊だ。追い回されながら充電器を買う余裕は今のところない。連絡を取りたいが電話番号を覚えているはずもなく、一度充電し電話帳を開きたいのだが。 「さてさて、どうしたものかな」 今日見た限りだと13人はいた。 いくら変装しても一時的に撒くしかできず、この変装も明日にはばれるだろう。 まったく面倒な相手だと欠伸を一つした。 眠い。 寝てしまおう。 そんな事を考えていると、何か物音、いや声が聞こえた気がした。 ・・・まさか、ここが気付かれたのか? C.C.は慌てて体を起こし着替えて荷物を手に部屋を出た。 やはり階下から男女の悲鳴と怒声が聞こえる。 当然だ。 ここに来る目的など普通はアレだ。 そこに見知らぬ連中が銃を手に入り込めば悲鳴も上げたくなるだろう。悲鳴の距離から考えれば、まだ時間はありそうだ。非常階段は・・・そこか。 迷うことなく非常階段を目指し、上へと登って行った。 下は見張られている。 だから上へ。 幸いこのあたりはビルが乱立している。 だから万一の時の逃げ場を考えて、このホテルを選んだのだ。屋上に上がったC.C.は、このビルよりも低いビル目掛け全力で駆けると、躊躇うことなく飛び移った。 |